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えじぷとの文化、芸術、エンターテインメント堪能記です。 twitter: @sukkarcheenee facebook: http://www.facebook.com/koji.sato2
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年末から手をつけていたが、引越しやらなにやらで手が離れてしまっていた小説を、新居にて読了。ロンドン在住パキスタン人、Mohsin Hamidの小説、"The Reluctant Fundamentalist"を読もうと思ったのは、いわゆる「ジャケ買い」。ヒゲの厳しい目つきの若者の肖像の上に、アメリカ国旗の13本の紅白線を象徴する7本のラインと緑地に月と星のパキスタン国旗がかぶさるイメージは、タイトルとあいまって、そこはかとないスリラーを感じさせる装丁。

といっても、タイトルには「Fundamentalist=原理主義」の対立概念といってよい「
Reluctant=躊躇する」という修飾がついていて、登場人物のキャラクターに深刻な分裂があることを予感させもする。

パキスタンはラホール出身で米プリンストンを優秀な成績で卒業し、企業業績の格付けを行う難関の企業で活躍する主人公Changezは、国籍や出自を問わず万人に成功のチャンスを提供するアメリカの懐の深さを実感していた。そして、大学時代に知り合った美しい女性エリカとの関係も順調に発展し、主人公の人生の船出は順風満帆に思われた。911の前までは。

911を境に、エリカが死んだ昔のボーイフレンドの亡霊に取り付かれるが、それはいかにも未来の限りなき成長を原動力としてきたアメリカが突然過去に回帰したことを象徴的にあらわす事件として語られる。アメリカが変わっていくなかで、Changez自身も自らのアイデンティティの揺らぎを感じはじめ、攻撃される隣国アフガニスタンの人々への同情と攻撃するアメリカ軍に対する怒りに引き裂かれていく。エリート格付け会社Underwood Samsonの社是である「原理にもどづく行動」、すなわち、経済学的価値の最大化という原理にもとづいて、それ以外の文化的、人間的、情緒的、etc.な価値を捨象することに疑いをもたなかった主人公の内部で、原理への信念に対する疑いが生じ始め、それは、自分の格付けがまさにつぶさんとしているペルーの書店の経営者が、はるか彼方パキスタンの自分の叔父の本をおいていることを知ったことで、決定的な崩壊をもたらす。この書店経営者は、オスマン帝国に雇われ、もともとのトルコ軍人よりも皇帝への忠誠を示し勇猛に戦ったとされる、キリスト教徒の傭兵、イェニチェリに例えてみせた。祖国のことを忘れ、新しい帰属先である帝国の拡張欲望に奉仕するという点で、いまのChangezはイェニチェリとおんなじである、と。ただ、イェニチェリの場合には、もっと若いときに連れ去られ、もともとの帰属への記憶がないのだが、Changezの場合にはあまりにもパキスタンへの帰属意識が強すぎるために、内部で引き裂かれていると、彼は主人公の苦悩を見事に言い当ててみせる。

アメリカのアフガン攻撃の後、パキスタンはもう一つの隣国インドと厳しい緊張関係に陥り、しかもアメリカはどうやらインドを支持する雰囲気であるなか、もう一つの原理=祖国、家族へと帰還し、彼らと運命~それがどんなに過酷なものであろうとも~をともにしようと決心した主人公には、しかし、彼をアメリカに引き止めずにはおかない、もう一つの原理~エリカへの愛~が遺されていた。そのエリカは、精神病棟で亡き幼馴なじみとの思い出のなかに閉じこもったまま出てこなくなっている。ペルーでの仕事を中途で投げ出し、エリカのもとへ駆けつけたChangezは、彼女が崖の上に衣服だけを残して失踪してしまったことを知らされ、失意のままラホールへ帰還する。

パキスタンへ戻ってからの彼の営みは最終章で語られるが、果たして、Changezは、どうやってアメリカのやむことのない帝国主義的な拡張と破壊への欲望を止めようとしてきたかということを、この長い物語をラホールの食堂にて聞いているアメリカ人(おそらくはジャーナリスト?)に対して話してきかせる。エンディングは"Reluctant"というタイトルよろしく、はっきりさせないまま、不気味に幕を下ろすわけだが、『誰がダニエル・パールを殺したか?』を読んだ人ならば、僕のように、この実際に起きた事件を想起させられ、恐ろしい結末を想像してしまうかもしれない。

グローバル経済の中枢に傭兵として雇われた辺境出身者が、自らが加担する資本主義的暴力装置の手が祖国に及んだことを知ったとき、何を思い、どうふるまうのか?オスマン・トルコのイェニチェリを引き合いに出して見せたことで、読者はこの問いがはるか昔から続いている問題であることを知るに違いない。

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