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えじぷとの文化、芸術、エンターテインメント堪能記です。 twitter: @sukkarcheenee facebook: http://www.facebook.com/koji.sato2
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クリスマス・イヴの昼下がり、僕は妻と娘の沙羅とともに、カイロ空港に降り立った。




4年間のインド滞在を終え東京に戻ってから、さらに4年半あまりが経過していた。いちど異国の地の空気と食物で自分の体組織がすっかり入れ替わってしまう体験をしてしまった者は、その追体験を渇望するものかもしれない。このブログに最後の日記を記したちょうどその頃、エジプト赴任の内示を受けた。地球上のどの土地へ行けと言われても喜んで飛び立つつもりでいたが、アラブ文化の中心で輝きを放つカイロで生活し、かの地との文化交流に奔走する自分のイメージを膨らませてきただけに、組織から受けたこの命は実際、嬉しかった。妻も僕以上に興奮して、家族で始めての海外生活への夢を一緒に膨らませ始めた。2歳に満たない沙羅も、ここが東京であり、自分もいっぱしにパスポートをもって海を越えて時差7時間の世界へと旅立つことを、自分なりに理解しようとしているように思えた。

「沙羅、えぢぷと行くの。飛行機でびゅーんって飛んで行くの。」

と嬉々として語る姿に、身内や保育園の仲間から娘を引き裂いてしまうことへの呵責の念が和らいだものだった。

 
カイロで僕達を待っていたものは、デリーを凌ぐばかりの人、人、人。そして、車、車、車。空港は白タクの運転手を筆頭に男臭い熱気で沸き返り、路上は車線と道路標識を無視してクラクションを鳴らし続ける自動車が、お互いの車体をいまにも擦りあわしかねない無茶苦茶なバトルを繰り広げている。デリーとは違ってここの自動車はサイドミラーをちゃんとつけて走行しているので、一瞬、カイロのドライバーはデリーよりはお上品なのかなと思いかけたが、多くの自動車がボディーに激しい戦いの傷跡を残しているのを見て、即座に印象を改めた。10年前、国際運転免許証を懐に忍ばせてインドへ旅立ち、一度も使用しないまま4年を過ごし帰国したものだが、家族あげての引越しの手続きの多さにパニック状態になりながらも、なんとか時間をみつけて取りに行った今次の国際免許も、同じ運命をたどるに違いない。そういえば、鮫洲の窓口のお兄さん、新婚旅行がエジプトだったって、嬉しそうに話してくれたっけな。

 
家探しの期間泊まっていたホテル脇の路上で英字新聞アハラーム・ウィークリーを買ったら、ちょうどカイロの交通問題を特集していた。それによると、カイロの自動車数は、許容台数50万台に対して4倍の200万台にまで達しており、平均時速は21Kmを割った。交通マヒは既に末期状態に達している。同紙はまた、この深刻な交通問題の解決に対して政府があまりにも無策であると、この国の政府系メディアにしてはわりとストレートに辛辣な批判を投げかけていた。皮肉が利いていて笑えたのがDena Rashid氏寄稿のドライバー心得14箇条。「隣の車が大チョンボをするといつも仮定し、常に一歩前を進め。」とか、「道路を横断している歩行者があなたに注意を向けていないとき、絶対にクラクションを鳴らしてはいけない。そうすれば歩行者はびっくりして道路のど真ん中で立ち止まってしまうだろう。そのまま渡らせてあげなさい。」といったごもっともな忠告に混じって、「あなたのサイドミラーが何度も何度もぶつけられても、決して怒ってはいけない。それは車の一部ではないというのが、正しい一般的仮定である。」という、もはや悟りの境地にあるかのような訓示には、胸打たれるものがある。

 
カイロ・アメリカン大学教授のGalal Amin氏は著書"Whatever Happened to the Egyptians"のなかで、この末期的症状をこのように描写している。
 
「宇宙人がある日のカイロの路上に着陸したとしたら、我々が『プライベート・カー』と呼んでいる物体をどのように思うだろうか。素早く、便利で経済的な交通手段であるといった我々の認識を彼に一切伝えずして、それが道路の両脇に停めてある、あるいは狭い通りを亀の歩みでのろのろ進み、ちょっとの間前進したかと思ったらまた立ち止まり、しかも45人を収容することができるにもかかわらずどの1台にも1人か多くて2人しか乗っていない、何千台もの自動車のことを指しているなどとどうしてわかるだろうか?」
 
著者はこの状況の原因を70年代中盤に導入された輸入自由化に求め、これがきっかけて市中が世界中の乗用車のショールームと化したと言う。金のある者がみな一斉に乗用車に飛びつき、プライベート・カーの普及とともに公共交通機関はますます下層の人々に帰属するものとなった。こうして、公共交通機関の効率性と利便性の悪化が私用車のさらなる増加を招き、それがますます公共交通機関をダメにしていくという悪循環が産み出された。この国だけの問題ではないが、政府が経済の自由化を先行させ、その副作用に対して無策である時間が長すぎたことを、目の前の光景があまりにも露骨に語っているのだ。

 
家探しを辛抱強く助けてくれたローカル・スタッフのNさんに通勤事情を聞いてみると、自宅の車の送迎とバスの併用で朝は1時間程度でオフィスに着くが、帰宅ラッシュに巻き込まれる夕方は2時間を優に超えるらしい。あの家は家具がダメだ、この家は居間が狭いなどとケチをつけまくる我々を優しく見守り励ましてくれる彼女の忍耐は、毎日の通勤によって培われているのかもしれない。Nさんもすごいが、事務所の運転手さんの冷静さ、我慢強さにも敬服してしまう。無理な車線変更で追い抜かれてヒヤッとさせられるのは日常の行事だが、彼等は一般のドライバーと違ってやたらクラクションを鳴らしまくったりはしない。一車線の右に2列、左に2列、路駐の車がどこまでも並んでいるような状況でも、あせらずに最良の駐車場所を確保して、わずかな隙間にわれらの車を挟み込む神業を披露してくれるのだ。

 
こうして、どうしようもない道路状況に象徴されるお上の無策ぶりと、それを耐え忍びさらには笑いにまで高める庶民のたくましさが交差するカイロの日常は、われらよそ者の目を飽きさせることがない。
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インドで4年生活し、今度はエジプトへ!この国の人々の生態、面白情報をお届けします。

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