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えじぷとの文化、芸術、エンターテインメント堪能記です。 twitter: @sukkarcheenee facebook: http://www.facebook.com/koji.sato2
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51elgZelZeL._SL500_AA240_.jpg前の日記に書いたとおり、エジプトのお勉強そっちのけで司馬遼太郎と村上春樹に浸っていた今日この頃。少しだけ心を入れ替えて、数ヶ月前からちびり読みしていた”Inside Egypt: The Land of the Pharaohs on the Brink of a Revolution"(John R. Bradley著、Palgrave Macmillan)を昨夜読みきった。あんまり時間をかけてしまったため、最初のほうに何が書いてあったか、記憶が不明瞭。いま現在のエジプトの政治と社会がよくわかる、一級のジャーナリストによる分析なので、いまいちど読み直してみようと思っている。

著者は、最初の章で人気作家のアラ・アスワーニーと彼の出世作『ヤコービアン・ビルディング』をとりあげ、ひとつには、彼を囲むダウンタウンのカフェで行われたある日の知識人サロンを取材する。その日は、文化大臣ファルーク・ホスニが、女性のスカーフを文化的に遅れた行為であると発言して各方面から非難・攻撃を受けていることについて、みなが意見を交換していた。大臣の発言に賛同するかどうかの問題ではなく、世の中にこれだけ多くの社会問題があふれているなか、こうしたアイデンティティや文化をめぐるコントラヴァシーに限って、どうしてこうも世論やメディアが沸騰してしまうのか、という点に著者は疑問を投げかける。

章を追っていくごとに著者のエジプト社会に対する視座がはっきりしてくるが、それは、独裁といってよい強権政治が、政治の失敗についての報道や発言をほとんど抹殺している状況下で、一種のスケープゴートとして、こうした日常生活に直結しない問題への飛びつきを放任しているという分析によっている。アラ・アスワーニーのような著名な知識人や左翼系独立メディアを中心とするキファーヤ(もうたくさん)運動なども、問題への言及が政権が許容できる範囲であれば泳がせておき、もって、中東地域の民主化を監視する米国などのご機嫌をとるが、その範囲を逸脱した瞬間、逮捕状なしの拘留、軍事法廷での裁定、投獄、拷問など、人権を無視した言論の抹殺が行われる。

しかし、そうやって社会問題に対する世俗的アプローチでの穏健な政治批判をたたきつぶすことによって、人々の不満のよりどころは宗教に集中していき、ムスリム同胞団という原理主義組織の台頭を許したばかりか、元来、他の宗教や信条に対して寛容なコスモポリタンであったエジプト(特にカイロ)の人々の文化そのものの非寛容性、非協調性を強化する方向へと進んでしまっているという。

ナセルの革命の評価、ムスリム同胞団、イスラム神秘主義とキリスト教、ベドウィン、拷問、腐敗、失われた尊厳といった形で、章ごとに明確に扱う対象を区分していて、独立した章だけを切り取って読んでも、十分に面白い。その点は、全体の論文のストラクチャーのなかでの論理構成から章立てを作っていくアカデミックなアプローチとは違っていて、読みやすい反面、読後感は散漫な印象を残してしまうというのが、この本の弱点でもあるだろう。

最終章は、「ムバラク以降のエジプト」という大胆なタイトルで、著者は、イランのイスラム革命をひきあいに出しながら、エジプトにおいてもそのような宗教革命によってレジームがひっくりかえる可能性があると予言している。そして、エジプト近現代史においてほぼ30年おきにクーデター、革命などの社会騒擾がおきていて、前回が1977年の食糧補助金廃止による暴動だったから、「そろそろ何かおきるぞ」と警告して、231ページの本書は終了。

学術論文ではないので、非常に読みやすく、短時間で現代エジプトの政治社会状況がつかめるので、十分にオススメできる本である。

片や、もう一冊、同時期にカイロ・アメリカン大学出版から出たその名も"Egypt After Mubarak"という本があって、こちらはアメリカの大学の准教授が書いた学術書だ。字数も多いので、Bradley氏の本よりも手をつけるのが躊躇われる。いつか、力尽きなければ、レポートしたいと思う。


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インドで4年生活し、今度はエジプトへ!この国の人々の生態、面白情報をお届けします。

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