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昼食後、天気が良いので、新所長を散歩に誘い、近所のカイロ・アメリカン大学へと出かけた。最近、キャンパスが郊外に移動してしまい、ダウンタウンの一等地にある旧施設には猫ばかりめだって、賑やかな学生たちの姿はほとんど見られなくなっている。一方で、幸いに、カイロで一番の英語蔵書をもつ書店は営業しているので、所長を案内しつつ、自分も久々の書店そぞろ歩きを楽しんだ。たまたま、この一週間、ブックフェアなるイベントをやっていて、すべての本が2割引きだったから、定価200ポンド(約3500円)もするエジプト現代美術の本やら、サダト元大統領夫人の自伝など、思い切ったまとめ買いをしてしまった。
カウンターに、このブックフェアのちらしが置いてあり、見ると、今日午後6時から、施設内で小説家Alaa Al Aswanyと英語翻訳家Hunphrey Daviesによる読書会があると書かれていたので、事務所の同僚と一緒に出かけてみた。Alaa Al Aswanyは、エジプトでいま一番人気のある作家で、話題作"Yacoubien Building"は、20数カ国で翻訳され、全世界で100万部以上の売り上げを記録している、文字通りベストセラー作家だ。この"Yacoubien Building"は、喜劇王アーデル・イマームを主役に立て2006年に映画化され、フランスのアラブ映画祭でグランプリを受賞するなど、小説の人気に色を添えている。今日は、新たに彼の短編集"Friendly Fire"の英訳がアメリカン大学出版から刊行された記念に、作家と訳者とファンが作品世界を楽しもうという趣向の、ぜいたくでリラックスした雰囲気の会がアレンジされていた。英語での会だったこともあって、参加者は外国人が多かった。アラビア語でもっぱらエジプト人のために企画されるこうしたイベントは、きっともっともっと熱の籠もったものに違いない。
作品の朗読は、この短編集から、Alaa氏が短めの2編を選び、Alaa氏のアラビア語オリジナルの朗読に続いて、Hunphrey氏が英訳の朗読をする形だった。アラビア語の散文の音とリズムを楽しみ、そのあとで英訳で内容をちゃんと確認することができるから、アラビア語が未熟な僕のような人には、至れり尽くせりだった。この日読んでくれた作品は、'Izzat Amin Islandar'と'Mme Zetta Mendes, A Last Image'。現代エジプト社会の暗部をこれでもかと容赦なく抉り出した"Yacoubien Building"を読んだ後では、短編にも暗く重苦しいテーマが想像されたが、意外にも、どちらも社会告発的な要素のない、友人や家族など身近で限定された人間関係のなかでのほほえましいドラマが描かれていて、局所に散りばめられたユーモアも軽妙で、とても気持ちの良い読後感だった。前者は、義足の少年が「僕」の自転車にどうしても乗りたがり、「僕」が手を貸して最後に彼が自転車を制覇するカタルシスを書き、後者は、幼少期にあこがれた自分の父の愛人との30年後の出会いを書いている。他の作品にはまた別の傾向があるかもしれないが、僕が思っていたよりも幅広い作風をもった作家なのだな、と再評価。彼の作品をもう少しちゃんと読んでみようという気になった。
朗読のあとの質疑応答では、大きく分類すると、言論の自由への圧力下で大胆な告発を行うAlaa氏の社会とのかかわりをめぐる問題、エジプトにおける文学の読まれ方の問題、翻訳をめぐる問題が語られた。
1点目については、Alaa氏は、タブーとされている問題を率直に表現し、圧力に対して屈しないことは、自分自身の自由の問題であるとともに、エジプト人全体に対しても、彼の作品を通して社会の問題を語る武器としての言葉をもち、圧力に屈せず表現していくことを学んで欲しいという期待を持っている、というようなことを語った。
2点目については、彼が小説を書き始めた80年代から90年代にかけての時代は、文学にとって最悪の時代で、民間の出版社は全く力をもたず、作品を発表しようと思ったら政府直営出版社を通すしかなく、結果、あれやこれやといちゃもんをつけられて、出版を断念せざるを得なかったという。それは、ひいては読者である国民にとっての不幸であったわけだが、90年代末あたりから民間出版社が台頭しはじめ、勇気をもってAlaa氏のような告発型の作品をも発表するようになり、それが"Yacoubien Building"のベストセラーを導いたという。エジプトの文学、出版状況を長く見てきた人たちが、「エジプト、アラブ世界では久しく忘れ去られていた「ベストセラー」という現象が復活した」と言っていたのが印象的だった。
3点目はテクニカルな話になるが、アラビア語から英語への翻訳上の問題。文化コードの違いをどう処理するかという観点から、脚注をつけるかどうか、アラビア語では一般的な現在形の長い複文を英語でどう表現するか、正則アラビア語に混じって使用されるエジプト口語を英語でどう処理するか、など、それこそ別に時間をとって具体的に例文をあげて語れば、アラビア語がわかる人にとっては何時間でも飽きないようなお話だった。
最後にサイン会となったので、昼間に買って持ってきていた"Friendly FIre"をもって列に並んだ。ちゃっかりと、日本ではまだ翻訳が出ていないことを話題にし、自分の名刺を渡して関心をひき、メルアドと携帯番号をゲット!これから先、日本との文学交流で、もっと深く彼と接することがあれば、なかなかに楽しいことが待っていそうな気がしている。
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