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えじぷとの文化、芸術、エンターテインメント堪能記です。 twitter: @sukkarcheenee facebook: http://www.facebook.com/koji.sato2
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4月26日から5月3日までの一週間、東京シンフォニエッタという現代音楽の専門家集団をエジプトに招いて、アレキサンドリアとカイロで公演や指導をしてもらった。

ドイツ在住のエジプト人クラリネット奏者、シェリフ・ラッザーズさんがノーアポで事務所をたずねてきたのは、去年の7月くらいのことだったと思う。エジプトでは音楽家たちの間でもほとんど知られていない現代音楽を普及するためのフェスティバルを二年に一度開くつもりで、すでにアレキサンドリア図書館から予算をもらっている。東京シンフォニエッタにも声をかけていて、来てくれそうな見込みだ。国際交流基金には、日本の著名な作曲家を派遣してほしい。ほかに、ドイツや韓国からもアンサンブルを招待する予定。そういう話だった。

それから半年以上の間、東京シンフォニエッタ、基金本部、シェリフ氏、アレキサンドリア図書館、カイロオペラハウス、コンセルバトワールなどなど、さまざまな当事者と交渉を重ねて、なんとかかんとか東京シンフォニエッタ23名と作曲家湯浅譲二さんをお招きできる目処がたったときには、開催日からすでに1ヶ月を切っていた。

そこからの広報やら受け入れロジやらの作業も大変だったが、実際に一行がいらしてからも、毎日1つや2つは問題が発生して、その応急処置をしながらプログラムを動かしていく、クレイジーな状態が続いた。エジプトに限らず、おそらく世界中どこでやっても仕事観の不一致が問題となるわけだが、ここでも日本側が合意したと思っている段取りが相手側では形になっておらず、フタをあけてみるとあれもない、これもない、あれはあるけど使い物にならない、リハの開始時間になっても舞台監督がいない、などといった問題があれよあれよとふって出てきた。

そうした問題群と向き合いながら、それでもこれを文化の違いとして受けとめて、噴出しようとする憤りをおさえながら、なんとかかんとか、一緒にひとつのものを作っていく。営利事業ではない文化交流は、その成果としての公演などの本番だけでなく、そうした裏方のぶつかりあいのプロセスまでもが大事な要素を占めている。これだけの大きなグループがやってくれば当然に起こるいろんなトラブルをひとつひとつ処理していく過程を通して、あらためてそのことを再確認した。

現代音楽といっても、僕自身、日常的に聴いているわけではなく、どちらかというと縁遠い世界だというのが正直なところだ。それでも、最初にシェリフ氏が情熱的にこのビエンナーレの必要性を説いた時に、彼の本気度に気持ちを動かされ、直感的にこれは汗をかくに値する仕事だと思えたのだった。

フタをあけてみれば、観客の数もそれなりだったが、なによりもオーディエンスの多くが新しい音楽体験に興奮し、前のめりになりながら楽しんで聴いている姿を見て、その直感が間違っていなかったと実感。指揮者の板倉さんの「私たちは西洋音楽の楽器や形態を使いながら、21世紀の日本の伝統音楽を創造しようとしているのです。」とのMCが、観客のなかにスーっと了解されていく空気を感じ取ることができた。それは、エジプトの音楽を心ざす人たちのなかにも、同じ精神の火種を残していったように思う。カイロ公演の前日、コンセルバトワールを団員に訪問していただき、学生さんたちにレッスンをつけていただいた。演奏レベルこそ大きな差があるが、東京シンフォニエッタの一流の音楽家たちが、エジプトの音楽家の卵たち、教師たちの真剣さに感動して、「教えることができてよかった」と思ってくれたこともまた、大きな収穫だった。公演終了後のオペラハウスの楽屋裏で、彼らはみな、名残を惜しみながら音楽の喜びを全身で表現していた。

帰国の途につく空港で、板倉さんが話してくれた。カイロ公演の西村朗さんの'RIver of Karna II'という楽曲で、クラリネットのソロをとったシェリフ氏の演奏に感動したのだという。演奏の技術的レベルのことではなく、楽曲に対して真剣に向かい合う姿勢が、しばらく自分たちが忘れかけていた音楽の原点を思い起こさせたのだという。

設備も、楽器も、教育環境も、日本や西欧と比べれば見劣りのするエジプトだけれども、音楽を心から愛して、一生懸命にとりくんでいる人たちがいるという点では、おんなじだ。そして、彼らと日本の音楽家たちの出会いが双方に新しいひらめきや感動を残したとすれば、自分がかいた汗などとるに足りないものだと思える。

よし、これからは家でも現代音楽だな、などと熱しやすい自分は、さっそく西村朗さんのCDをかけてみたら、最初は興味深々で近づいてきた長女が、「おとうさん、怖いよ~。」と言って、逃げていった。子どもにとっては、まだちょっと難しいタイプの音楽ではあるらしい。
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