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えじぷとの文化、芸術、エンターテインメント堪能記です。 twitter: @sukkarcheenee facebook: http://www.facebook.com/koji.sato2
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事務所のすぐそば、タハリール広場は、いつも市民のデモでかまびすしい。
もっとも声高に叫ばれるスローガンは、「パンを値上げするな!」

いろいろ不満は尽きないが、当然ながら「食えない」ことへの恐怖感、その恐怖感の元凶である政府の無策ぶりや腐敗に対する憤りは、市民の心に蓄積して沸点に達っせんとしているように感じられる。

この土地の主食は、米というよりは、パンだ。袋状のピタに似たそれは、この土地の食文化がトルコ料理の影響を強く受けていることの象徴だ。焼きたてはフカフカして上手い。

そして、上流・下流を問わず、人々が日々食するパンの価格が常に政治の争点となる。70年代、サダトの開放政策「インフィターハ」によりパンなど主食への補助金削減が行われたとき、国内で暴動が起きたという。それ以降、政府は自由化政策の必然的帰結としての補助金削減への願望を、市民の顔色を見ながら実行にうつそうとするが、前例の再発への惧れからいつも矛を下ろしているという訳だ。

英語誌"Egypt Today"3月号は、'A PORTRAIT OF POVERTY'という特集を組み、市井の人から政治家、学者まで立場の違う人たちの声を拾い、現代エジプト社会における貧困問題の実相に迫っている。

以前、スークでの買い物体験を記したとき、6枚で1.5ポンド(約30円)と報告したが、われわれが消費しているパンは随分と高級なものであることがわかった。同誌によると、下層の庶民は1枚5ピアストル=1円のパンを買っているらしい。移動中の車窓から、時折、パンを求めて行列をなす人々を見かけることがある。これが、配給で買う補助金ののっかったパン市場の現状である。

同誌で最初に登場する公務員のシングルマザーは、月給が240ポンド(4,800円)。それに対して、16歳の娘と暮らす部屋の家賃が月500ポンド。足りない分は母親と兄弟に支援してもらっているという。さらに、昨今の急激な物価上昇が生活苦に追い討ちをかける。秋のラマダーンのとき1本7ポンド(140円)だった食用油が今では10ポンドに、キロ4.5ポンドだったレンズマメが9.25ポンドになった。2007年に7.1パーセントを記録した経済成長率も、それを凌ぐインフレと低所得層の固定的賃金のせいで、まったく庶民に還元されていないという。

次に登場する世界銀行のエコノミストは、マクロの数字を持ち出して、エジプトの経済成長を肯定的に評価してみせる。すなわち、貧困を年収980ポンド(約2万円)以下の「最貧層(extremely poor)」、1400ポンド(28,000円)未満の「貧困層(poor)」、1800ポンド(36,000円)以下の「準貧困層(near poor)」に分類・整理してみると、「最貧層」は人口のわずか3.8パーセント、「貧困層」がこの10年~15年の間20%程度で微増、「準貧困層」が2000年の25.5%から2005年には20%まで縮小している。準貧困層が社会的に上昇していわゆる中間層に厚みが出ているということが言えるというわけだ。
むしろ、問題は実態としての貧困ではなく、願望と実態との格差認識にあるとする。都会生活では、自由化とマクロ成長の恩恵をうけて、市場にものがあふれ、実際にそれを消費する階層が増加している。それにもかかわらず、自分たちにはその恩恵がおこぼれしてこない不満、目の前に出現してしまった豊かな生活に自分は届かないという不満こそが、人々の自己認識を「貧しい」と感じさせ、社会や政府への批判となって噴き出しているという。

その次に登場するのは野党左翼政党の議員で、こちらはすべての元凶を与党独裁政治の腐敗に帰す。配給をはじめとする物資の供給過程にさまざまな許認可がからみ、そのプロセスで権威をもった者が「着服」を行い、庶民のもとに届くときには経済成長の果実はすべてそれら権力者に食い尽くされてしまう。小説"Yacoubian Building”の作者Alaa Aswanyと共通の基本認識だ。

どの意見にも一定の真実があるように思えるが、最初に登場する庶民の声が現実の厳しい生活をリアルに主張していて、切なくなる。自分のまわりで自分を支えてくれる運転手さんやお手伝いさんは、まさにこの階層にいて、言葉のはしはしから、驚異的物価上昇と社会的サービスの低下の両方に押しつぶされた悲鳴が聞こえてくる。エコノミストが主張する「上昇願望が実現されないフラストレーション」にも一理あろうが、現実の厳しさにも目をむけて、彼らの生活のことを気にしてやることも必要だなーと思う、今日このごろである。

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