えじぷとの文化、芸術、エンターテインメント堪能記です。
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家族でエジプトにやってきて最初に直面したのが食事のことだった。独身で4年間を過ごしたインドでは、若かったということもあるが、食には無頓着で、どんな食材をどこで調達して何を調理するかという全てを、完全にお手伝いさんにまかせていたものだった。しかし、2歳と0歳の子供をもついまは、そういうわけにはいかない。
僕自身というよりは妻が食と人間と自然のあり方に強い関心をもち、東京にいたときから有機野菜からなる宅配サービスを受けていたので、こちらに来た初日から同僚や知人たちに同様のサービスがないか聞いてみた。
そうしたところ、教えてもらったのが、ISISというブランドだった。イシスはエジプト神話の女神の名前として聞いたことのある名前だったが、このブランドの商品はMETROやALFAなどのスーパーマーケットで買えることがすぐにわかった。野菜だけでなく、牛乳やオリーブオイルなども陳列されていた。
生活をはじめて、自宅のあるザマーレクを歩いているうちに、ISISのロゴが入った看板のあるお店を発見。ISIS商品の専門店だ。野菜や果物などの食材のほかに、子供服などもおいてある。直営店というのが安心感を与えてくれるので、妻はそれから頻繁にこの店を利用するようになった。
ある日、妻が運転手さんにISISに行くようにお願いしたところ、彼が首を傾げてよくわからない素振りを見せ、実際にお店に着いてみたら、「なんだ、SEKEMのことじゃないか。」と言った。確かに看板のISISのロゴの下に、SEKEMの文字があることを、僕自身も後になって発見した。でも、ISISとSEKEMの違いについては、人に聞いたりしてもよくわからずじまいだった。
そんなある日、カイロ・アメリカン大学の書店で、その名も"SEKEM A Sustainable Community in the Egyptian Desert"という本を発見!200ポンド(4,000円)という高値だったが、奮発して購入し、ヒマをみつけてはパラパラと読み進んだ。
著者は、SEKEMの創設者、イブラヒーム・アブレーシュ(Ibrahim Abouleish)さん。扉一面に使われている彼の穏やかで優しげな表情、たたずまいからは、とても1937年生まれとは思えない若々しさがあふれている。SEKEMとは、太陽の恵みという意味だそうだ。
この本は、イブラヒームさんの自伝として読むこともできるし、SEKEMという理念を彼と仲間たちが現実に変えていく物語としても読めるし、はたまた、西洋哲学、なかでもルドルフ・シュタイナーのアントロポゾフィーと、イブラヒームさん独自のイスラーム教の実践哲学の融合の試みとしても読める。
第一章 "The Story of My Life"は、イブラヒームさんの幼少から青年期までの物語だ。早くから独立心の旺盛だったイブラヒームさんは、19歳のとき、両親の反対を押し切って単身、オーストリアのグラーツへ向かう。この街に住む友人を頼って、片道の旅費だけをもっての無謀ともとれる旅だったが、この街で大学の門を叩き、薬学を修め、そして、民間企業の研究所で薬物の特許をとるほどの働きを示した。オーストリア人の女性と結婚し、子をもうけ、ヨーロッパを生活の拠点としていた彼だったが、シュタイナーのアントロポゾフィーへと導いてくれたある女性をエジプトへ案内したりしているうちに、ヨーロッパで培った知識や理想をエジプトの地で実践してみたいという気持ちを抱くようになる。そして、1977年、エジプトに帰国し、北部の砂漠に70ヘクタールの土地を購入し、有機農業をはじめた。
第2章で展開される砂漠を緑に変える壮大な実験は、当初は遊牧民であるベドウィンに邪魔されたり、建築や土木の受注をした業者に騙されたり、ようやく育ちはじめた作物が砂嵐でふっとんだり、いろいろな障害に遭遇したらしく、もうそれだけでイブラヒームさんという人がいかに楽観的でかつ不屈の精神の持ち主であるかが実感される。
感動的なくだりは、ある新聞記者が当事者に取材しないで勝手な憶測でもって「SEKEMは太陽を神としてあがめている」と書いた記事が巻き起こしたイスラム聖職者たちとの衝突の模様に出てくる。イブラヒームさんは、シュタイナーの思想とイスラームの教えを融和させ、宇宙論的視座から人間と自然をホリスティックに調和させる有機農業の必要性を説き、逆に激情した聖職者たちに感動の涙をもたらし、SEKEMの力強いシンパに変えてしまうことに成功したのだという。実際、SEKEMのコミュニティでは、日々の礼拝、折々のイスラームの祝祭日の儀式を尊重し、神の意志の実践としての社会改革に取り組んでいるのだ。
第3章では、軌道にのったSEKEMの活動が、さらに幅を広げて、教育事業、職業訓練活動、医療、薬草薬学へと枝葉を伸ばしていった軌跡を記録している。19世紀エジプトの近代化の屋台骨を担った綿花産業についても、イブラヒームさんはそれが大量の殺虫剤・農薬を使用し環境を悪化させていることを問題視し、いまやSEKEMのみならずエジプトのほとんどの綿花生産を有機農業に切り替えることに成功した。北部の70ヘクタールからはじまった実験は、政府のみならず大衆的な支持を得て、全土に広がりを見せている。
2003年、SEKEMとイブラヒームさんの活動は、スイスのSchwab Foundatonから、オルターナティブ・ノーベル・プライズ(共生のノーベル賞)を受賞し、彼の第二の拠点であるオーストリア、ドイツを中心に今や国際的な支持と注目を集めている。イブラヒームさんはまた、イスラームを基盤とする協同組合型の社会改良運動の成功者として、たとえばアメリカの議員や有識者による会合に招かれ、911以降先鋭化する西と東の思想・観念的緊張の緩和にも尽力している。
SEKEMウェブサイト:http://www.sekem.com/english/default.aspx
僕自身というよりは妻が食と人間と自然のあり方に強い関心をもち、東京にいたときから有機野菜からなる宅配サービスを受けていたので、こちらに来た初日から同僚や知人たちに同様のサービスがないか聞いてみた。
そうしたところ、教えてもらったのが、ISISというブランドだった。イシスはエジプト神話の女神の名前として聞いたことのある名前だったが、このブランドの商品はMETROやALFAなどのスーパーマーケットで買えることがすぐにわかった。野菜だけでなく、牛乳やオリーブオイルなども陳列されていた。
生活をはじめて、自宅のあるザマーレクを歩いているうちに、ISISのロゴが入った看板のあるお店を発見。ISIS商品の専門店だ。野菜や果物などの食材のほかに、子供服などもおいてある。直営店というのが安心感を与えてくれるので、妻はそれから頻繁にこの店を利用するようになった。
ある日、妻が運転手さんにISISに行くようにお願いしたところ、彼が首を傾げてよくわからない素振りを見せ、実際にお店に着いてみたら、「なんだ、SEKEMのことじゃないか。」と言った。確かに看板のISISのロゴの下に、SEKEMの文字があることを、僕自身も後になって発見した。でも、ISISとSEKEMの違いについては、人に聞いたりしてもよくわからずじまいだった。
そんなある日、カイロ・アメリカン大学の書店で、その名も"SEKEM A Sustainable Community in the Egyptian Desert"という本を発見!200ポンド(4,000円)という高値だったが、奮発して購入し、ヒマをみつけてはパラパラと読み進んだ。
著者は、SEKEMの創設者、イブラヒーム・アブレーシュ(Ibrahim Abouleish)さん。扉一面に使われている彼の穏やかで優しげな表情、たたずまいからは、とても1937年生まれとは思えない若々しさがあふれている。SEKEMとは、太陽の恵みという意味だそうだ。
この本は、イブラヒームさんの自伝として読むこともできるし、SEKEMという理念を彼と仲間たちが現実に変えていく物語としても読めるし、はたまた、西洋哲学、なかでもルドルフ・シュタイナーのアントロポゾフィーと、イブラヒームさん独自のイスラーム教の実践哲学の融合の試みとしても読める。
第一章 "The Story of My Life"は、イブラヒームさんの幼少から青年期までの物語だ。早くから独立心の旺盛だったイブラヒームさんは、19歳のとき、両親の反対を押し切って単身、オーストリアのグラーツへ向かう。この街に住む友人を頼って、片道の旅費だけをもっての無謀ともとれる旅だったが、この街で大学の門を叩き、薬学を修め、そして、民間企業の研究所で薬物の特許をとるほどの働きを示した。オーストリア人の女性と結婚し、子をもうけ、ヨーロッパを生活の拠点としていた彼だったが、シュタイナーのアントロポゾフィーへと導いてくれたある女性をエジプトへ案内したりしているうちに、ヨーロッパで培った知識や理想をエジプトの地で実践してみたいという気持ちを抱くようになる。そして、1977年、エジプトに帰国し、北部の砂漠に70ヘクタールの土地を購入し、有機農業をはじめた。
第2章で展開される砂漠を緑に変える壮大な実験は、当初は遊牧民であるベドウィンに邪魔されたり、建築や土木の受注をした業者に騙されたり、ようやく育ちはじめた作物が砂嵐でふっとんだり、いろいろな障害に遭遇したらしく、もうそれだけでイブラヒームさんという人がいかに楽観的でかつ不屈の精神の持ち主であるかが実感される。
感動的なくだりは、ある新聞記者が当事者に取材しないで勝手な憶測でもって「SEKEMは太陽を神としてあがめている」と書いた記事が巻き起こしたイスラム聖職者たちとの衝突の模様に出てくる。イブラヒームさんは、シュタイナーの思想とイスラームの教えを融和させ、宇宙論的視座から人間と自然をホリスティックに調和させる有機農業の必要性を説き、逆に激情した聖職者たちに感動の涙をもたらし、SEKEMの力強いシンパに変えてしまうことに成功したのだという。実際、SEKEMのコミュニティでは、日々の礼拝、折々のイスラームの祝祭日の儀式を尊重し、神の意志の実践としての社会改革に取り組んでいるのだ。
第3章では、軌道にのったSEKEMの活動が、さらに幅を広げて、教育事業、職業訓練活動、医療、薬草薬学へと枝葉を伸ばしていった軌跡を記録している。19世紀エジプトの近代化の屋台骨を担った綿花産業についても、イブラヒームさんはそれが大量の殺虫剤・農薬を使用し環境を悪化させていることを問題視し、いまやSEKEMのみならずエジプトのほとんどの綿花生産を有機農業に切り替えることに成功した。北部の70ヘクタールからはじまった実験は、政府のみならず大衆的な支持を得て、全土に広がりを見せている。
2003年、SEKEMとイブラヒームさんの活動は、スイスのSchwab Foundatonから、オルターナティブ・ノーベル・プライズ(共生のノーベル賞)を受賞し、彼の第二の拠点であるオーストリア、ドイツを中心に今や国際的な支持と注目を集めている。イブラヒームさんはまた、イスラームを基盤とする協同組合型の社会改良運動の成功者として、たとえばアメリカの議員や有識者による会合に招かれ、911以降先鋭化する西と東の思想・観念的緊張の緩和にも尽力している。
SEKEMウェブサイト:http://www.sekem.com/english/default.aspx
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