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えじぷとの文化、芸術、エンターテインメント堪能記です。 twitter: @sukkarcheenee facebook: http://www.facebook.com/koji.sato2
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今日、2月15日から国際交流基金のプログラムで2週間日本に行ってもらう若い映画作家二人が、事務所に来てくれた。芸術アカデミー高等映画専門学校なるところで、ひとりは学生として卒業制作に取り組んでいる最中、もうひとりは卒業後講師として後進の指導にあたっている。

事前に二人が撮ったドキュメンタリーを見せてもらっていた。

講師のSoad Alyさんの作品は、"NUBA"というタイトルで、エジプト南部に多く住む民族の歴史と現在を追った50分のドキュメンタリー。ナセル時代のアスワンハイダム建設によって多くのヌビア族の村が水没し、再定住のプロセスのなかで、彼らの先祖伝来の文化のなにがしかが失われた。そんな彼らの現代におけるヌビアとしてのアイデンティティを追った作品である。この映画はアルジャジーラで放映されたもので、その実績からも、彼女はもうすでにプロとして活躍している作家であると言える。いまは、初めての劇映画を準備中だということで、完成したら市内の映画館で普通にお金を払って見ることができるはずだ。

学生のAbu Bakrさんの作品のタイトルは、"The Colony"。カイロの北にあるハンセン氏病患者と家族が隔離された村を取材したドキュメンタリーだ。今日、Abu Bakrさんとはじめて会って、少しばかりこの映画について話ができたのだが、映画でも紹介されているように、キリスト教ミッション系のNGOや政府の支援が入り、若い世代は罹患しても治療を受けて回復しているケースが多く、独立だ、戦争だと外交的冒険主義にあけくれたナセル時代を生きた彼らの親の世代には全く省みられなかったこと(その跡は、病状が進行した彼らの肢体を見れば一目瞭然である)であり、その意味では状況は改善されているのだという。むしろ現在の問題は、この村は法的には全く隔離されていないにも関わらず、中に住む彼らが村から外へ出たがらないことにあると、Abu Bakr氏は言う。彼らを迎えるマジョリティの社会のなかに、それを受け入れる基盤がない限り、社会的差別や制裁を恐れて、とても怖くて出られないのは、当然のことではないか。この日もうちのスタッフと彼との間で、ハンセン氏病の伝染性についてちょっとした議論があった。うちのスタッフは、映画のテーマを聞いただけで、怖くて見れないと言うのだ。いずれにしても、日本でもまたこの病は長く隠蔽され、罹患者とその家族は移動や職業の自由の制限を長く余技なくされてきたわけで、日本でこの作品が上映されれば、それはとてもレレヴァントなものとして、共通の議論の土壌を生み出すのではないだろうか。

Abu Bakrさんが現在取り組んでいる卒業制作の内容を聞いてみた。最近、エジプトで死刑執行があったのだが、絞首刑の現場でロープが切れてしまい、その結果、その死刑囚が釈放されてしまうという事件があったとのことで、それに取材したのだという。なんでも、フランス法に基礎をもつこの刑法では、「絞首刑」のことを単に'Hanging'としか規定していないため、'Hanging'の結果死亡しなければ、その死刑囚は、受刑を終了したことから、直ちに出獄を許されるのだという。映画をよく見るうちのスタッフが、このテーマをモティーフにしたフランス映画を見たことがあると言っていたから、フランス法に基づく国では、こうした信じがたい事故が理念系としては起こりうるし、実際に起こってもいるのだろう。その娑婆に戻った元死刑囚に取材したのかと聞いたら、残念ながらその本人にたどりつくことはできず、その不名誉な刑執行に立ち会った人々からの聞き取りを映画化しているのだという。こんなウソのようなホントの話、久しぶりに聞いて、えらく感動というか、興奮してしまったのだった。

2週間の日本でのプログラムでは、日本工学院のフルサポートを得ながら、ほぼ毎日、映画制作にあたってもらう。日本がはじめての二人だから、不安も多いだろうが、日本社会のどこに着目し、何を切り取り、映し出してくれるだろうか。

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先週はじめ、四方田犬彦さんが、新著をわざわざ送ってくれた。その名も、『濃縮四方田』(彩流社)。とうとう100冊を突破した四方田さんの著著のクライマックスだけを集めた、ベスト・オブ・ヨモタ。ベスト版だけでも500ページを超える大作で、1週間でまだ300ページにさしかかったところ。この現代の知の巨人と自分の人生がクロスする場面があったことは僥倖としかいいようがないが、最初の出会い、2002年にニューデリーで開催された岡倉天心没後100年記念シンポジウムのことは、いまでも鮮明に覚えている。デリー大学教授のブリジ・タンカ先生が企画し、国際交流基金が支援したこのシンポジウムには、四方田さんのほかにも、北一輝論の松本健一さん、最近物故された美術史の若桑みどりさん、日本に向けての発言や旺盛な執筆で著名なテッサ・モーリス・スズキさんなど、そうそうたる顔ぶれが集っていた。コーヒーブレイクの時間に、「表象論ばかりじゃなくて、もっとリアルな話も聞きたいですね。」などとわかったようなことをしゃべったら、「岡倉天心のシンポジウムで表象論をやらないでどうするのよ。」と、若桑先生に一撃のもとに撃墜されてしまったことも、昨日のことのように思い出されてくる。シンポジウムが終わった翌日、四方田さんのデリー案内を引き受けた。そのとき最初に尋ねたのが11世紀、この地に最初のイスラム王朝として建った奴隷王朝の祖、クトゥブディーン・アイバクの手によるクトゥブ・ミナールだった。四方田さんの注意は、その天高くそびえる古代イスラム建築ではなく、それ以前のヒンドゥー王朝時代からこの地におかれたいたナゾの鉄製のポールに注がれていた。このポールに背中をくっつけて両手をまきつけ、手の先がボールの反対側でくっつけば、願いが適う。この地の人々はこう信じて、来る日も来る日もポールに身体をこすり付けてきたのだった。そのせいで、人の手が触れる部分だけ見事に変色して、ツヤツヤと光沢を放っている。当時、「摩滅」について本を執筆中だった四方田さんにとっては、これこそが理想の摩滅と映ったようだった。それから間もなく、『摩滅の賦』という著書が上梓された。

2006年1月、まもなく文化庁の長期派遣となる文化交流史のプログラムでパレスチナと旧ユーゴスラビアへと旅立たれる四方田さんの壮行会を、赤坂のカレーやさんで催した。この文化交流史を通して四方田さんが見て、聞いて、考えたことが、『見ることの塩』という作品となり、僕は、またここからパレスチナという占領された場における文化と政治の問題を理解するためのたくさんのヒントをもらうことになる。そして、この壮行会のとき、四方田さんから飛び出てきた提案こそが、世界の翻訳者を集めての村上春樹についてのシンポジウムの開催で、四方田さんが1年の旅から戻ってこられてから、僕は、この大きなイベントを手がけるという、またとない僥倖に恵まれることになった。四方田さんのほか、柴田元幸さん、沼野充義さん、藤井省三さんという、素晴らしい案内人に先導されての企画は、この4人が協力してくれることになった段階で、成功を約束されていたのかもしれない。

300ページまで読み進んではみたものの、東西の理論を駆使して何事かを論じるくだりでは、専門用語の羅列で目がまわり、結局のところ、字面だけを追って未消化なまま。それでも、新しい知的刺激を求めて、ページを追う手はなかなか休まらない。こうして、毎日、寝不足が続いている。とにかく、披瀝される知識の量がハンパじゃない。当然ながら、頭の中が全部本になっているわけじゃないから、あの脳ミソにはもっといっぱいのことが詰まっているはず。とにかく、いつそれだけの本を読み、理解し、整理し、そして書くのか。同時にぼくら凡人と酒だって飲むのだから、この人と僕が同じ24時間を与えられていることがどうも信じられない。でも、問題は知識の量ではないと、僕は気づいている。彼にあって僕に乏しいものは、この世の中を理解したいという飽くなき欲望であることを。ベスト・オブ・ヨモタを読む体験とは、「オマエにも本当は眠っているだろ、その欲望が?」「目覚めて、探求せよ!」との氏のささやきに耳を傾けることのように思われる。
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インドで4年生活し、今度はエジプトへ!この国の人々の生態、面白情報をお届けします。

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