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えじぷとの文化、芸術、エンターテインメント堪能記です。 twitter: @sukkarcheenee facebook: http://www.facebook.com/koji.sato2
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話題の映画を、ようやく、ようやく、重い腰を上げて、観た。それも、自宅にてDVDで。映画館に行こう、行こう、という思いは日々脳裏をかすめるのだが、どうもフットワークが重くていけない。気がついたら上映館は一つもなくなってしまっていた。愕然としていたのだが、それから数ヶ月でDVDが店頭に並び、とりあえず溜飲を下げた。さっそく購入するも、今度は手元におけたことで安心してしまい、さらに数週間。子どもたちと一緒に布団に入ったのが6時過ぎのことで、10時半に目が覚め、本を読む気にならなかったので、ここぞとばかりにDVDをかけた。

2008年話題のエジプト映画、"Hasan and Marcos"は、その名が示すとおり、ムスリムとクリスチャンの男性が主人公。マルコス役に『アラビアのロレンス』のオマール・シャリフ、ハサン役にエジプトの喜劇王、アーデル・イマームという、往年の二大スターを起用する贅沢ぶり。

エジプトのキリスト教は、正教系の流れを汲みコプト教と呼ばれているが、ブーリス(アーデル・イマーム)は、宗教間の融和を説くコプトの地方指導者で、その融和姿勢が対決派の気にいらず、命を狙われている。同様に穏健な融和推進者のイスラームのシェイフ、ハサン(オマール・シャリフ)も、殉教した過激派の兄弟の跡を継げと脅迫を受けていた。二人はそれぞれ、警察に庇護を求めるが、担当した警部の迷案で、ブーリスは、ムスリムのハサンとして、ハサンはコプトのマルコスとして、ほとぼりが冷めるまで、地方で隠遁することになった。紆余曲折を経て、同じフラットの隣同士になった二軒の家族は、周囲に対しても、そして目の前の隣人に対しても自らの本当のアイデンティティを隠し続けなければならない。しかし、隠遁生活の長期化に伴い、二人とも金がなくなり、なにか仕事をする必要に迫られる。そこで、二人は共同経営でパン屋を営むのだが、そうした共同作業を通じて、この二つの家族はだんだんと親愛の気持ちを深めていくのだった。特に、ブーリスの息子とハサンの娘は初対面から惹かれあい、恋に落ちていくのだが、宗教を偽っているのは自分のほうであって、相手もそうであるとはお互い創造だにしていないところに、すでに悲劇は胚胎しているのだった。つまり、いまは異教徒同士の許されざる恋ということになっているが、いずれ真実を語れるようになれば、同じ宗教を信じる者同士、堂々と付き合える。そう、二人とも信じていたのだった。二人はやがて、将来を誓いあうまでに接近していくのだが、男が真実を告白した瞬間に、物語は悲劇へと劇的に変化する。ここからの展開は、ゆるい宗教観念で生きている日本人一般にはなかなか感情移入しにくいところだが、互いが互いをだましあっていたということが、一時はこの信頼しあった二つの家族の仲を引き裂く。どちらとも、一秒たりとも隣人ではいられないというヒステリー状態に陥ってしまうのだった(このヒステリー状態をリードしているのはいずれも妻であり、夫はそれに半分は同調しつつも、どこか割り切れない感情を抱えているという描かれ方をしている。この部分の描き方は説得力が弱いと感じた)。最後、ある出来事が分裂した二つの家族をもう一度結びつけることになるが、随所に笑いを忍ばせていながらも、全体としては重く暗い作品となっている。

視聴後の感想としては、フィクションということをさしひいて考えても、この国の二つの宗教グループ、イスラームとコプトは、一見、仲良く共存しているように見えるが、その実、平和は危うくもろい基盤のうえで実現されているということを知り、まずは自分の社会認識を改める必要性を感じた。確かに、自分がエジプトに住み始めた1年前から見ているだけでも、地方都市を中心に、小さな衝突が発生し、殺生沙汰にまでなっているケースもある。それぞれの宗教集団において、マジョリティは穏健な共存を支持するか、あるいは特段共存ということを政治化して考えてはいないだろうと思うが、どちらにも己こそが真実を体現していて他者は謝っていると信じる人たちがいて、こうした人たちが対立の構造を捏造し、強化していくという事態が、この国でも起こっている。カイロからアレキサンドリアへ向かう高速道路沿いのコプト修道院の街、ワディ・ナトルーンへのツアーに参加したことがあるが、ツアーの数字前までキャンセルの可能性があると聞き、その理由を尋ねると、数ヶ月前にこの街で、コプトの男とイスラームの女が駆け落ちし、この女がコプトのコミュニティにかくまわれたことを受け、女の住むコミュニティが報復として修道院を襲撃したということだった。訪問した修道院にて、案内してくれた修道士が、修道院をとりまく城壁などのセキュリティ・システムに触れ、「自分たちは、10世紀以上の間、バーバリアンから自衛をしなければならなかった。」と語ったとき、彼は過去のこととしてだけ語っているのではないことは、明らかだった。

さて、そのような社会背景のなかで、この映画が問いかけたかったメッセージとは?相手が自分と同じであるとの二つの認識が、ある日同時に崩れ去る。そのとき、二者それぞれが考える。我々はどうして信頼と友情を育むことができたのか、と。それは、単純に自分と相手が同じだと信じていたから、というだけなのか。むしろ、宗教的アイデンティティはお互いに隠蔽いたのだから、わかりあえていた部分というのは宗教的要素を除いた人間性ではなかったのか。「宗教が対立する」というステレオタイプ化されたテーゼに対抗して、では、その宗教の部分にマスクをしてしまったらどうだろう、というアイデアは、単純だが、映画のなかで上手に作用していたように思う。

日本で買えるかどうかはわかりませんが、エジプト映画のDVDはたいがい英語とフランス語の字幕がついているので、結構、ふつうに楽しめます。小難しいことを考えなくとも、往年のスターが共演する華のある娯楽映画として十分楽しめるはず。ぜひ、手にとって観てみてください。



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