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えじぷとの文化、芸術、エンターテインメント堪能記です。 twitter: @sukkarcheenee facebook: http://www.facebook.com/koji.sato2
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4月13日から29日まで、サウジアラビアの首都リヤドで、ジャナドリア祭という年に一度っきりの文化の祭典が開かれ、今年はアブダッラー国王の発案により日本がゲスト国に選ばれたため、日本館のなかで日本文化を紹介するスペースの運営のため、二度にわたって出張してきました。

サウジアラビアには以前にも2回訪問したことがあって、国として未知の世界ではなかったものの、そのときはハイレベルのミッションの随行で、王族や大臣としか会っておらず、普通の庶民と接するのは今回が初めてでした。

「世界第一の石油大国」「3万人もいるとされる王族支配」「ワッハーブ派と呼ばれる超保守的なイスラム原理主義」

という程度にしか知られていないこの国は、観光ビザをとって気軽に旅行することができるわけでなく、自由に街や通りを歩いて人々を観察し触れ合うといった機会をもつことはなかなかに困難なので、結局こうした紋切り型の理解以上に肉薄するすべがないわけです。それが、このジャナドリア祭では、おそらくは平時の自由の抑制に対する「ガス抜き」という狙いから、人々が比較的自由に交流し言葉を発することができる「ハレ」の場となっているようで、素顔のサウジアラビア人とたくさん接することができました(といっても女性のほどんどはアバーヤという真っ黒ドレスを頭からつま先までかぶり、鼻からあごまでを二カーブとう黒布でおおっているため、ご尊顔を拝むことはできないのですが)。

1度目の出張は事前準備のためで、会期中となった二度目の会場入りは、すでに独身男性のための「シングルデー」が終わって「ファミリーデー」に変わってからのことでした。よって、子連れのファミリーご一行が大変多かったのですが、旦那や兄弟に子どもをまかせて、日本人を見るや寄ってきて記念写真を求める女性の多いことにまず衝撃を受けます。そして、男女問わず、観客の大多数が片言程度には日本語を知っていることに、次なる衝撃がやってくる。世界の日本語教育普及が仕事の自分には、この国ではキングサウード大学という男子校以外では公式な日本語学校はないことがよくわかっているだけに、この日本語普及の高さはいったいどこから来るのか、目が点になってしまうのでした。

聞くと、インターネットを通したアニメやドラマで独学したという人たちばかりで、改めて日本のポップカルチャーの世界への浸透の深さに驚き、また、正式な教材がなくても相当のレベルで日本語を習得してしまうサウジアラビアの人たちの言語受容力の高さにも驚嘆してしまいました。なにせ、こちらのステレオタイプなサウジ人観は、徹底的に保守的で、異文化に対してかたくなに門戸を閉ざしている姿ですから、実際に出会ったサウジの人たちが日本人、日本文化に示してくれた開放性、親愛の情には必要以上に感動し、興奮してしまったのかもしれません。人懐っこくて、かといってずかずかと入り込んでくるわけではなく、遠慮深く様子を伺いながらコンタクトしてくる姿勢など、日本人の対人距離のとり方にマッチしていて、高感度絶大。もちろん会った人全員が素敵だったなどと言うつもりはないけれど、深く言葉を交わした数人からは忘れがたいハートウォーミングなバイブレーションをもらいました。

ただ、太鼓、津軽三味線、神楽などを披露した野外ステージでも、茶道や華道のデモと武具の展示をやった屋内でも、大混雑のなかで男女が近接してコミュニケーションをとる状況、音楽に対する観客の興奮状態に対して、宗教警察が相当のいらだちを示していたことも事実で、この国が世俗的な方向に開放しようとする王族を中心とする勢力と、イスラムの聖地として徹底した保守をつらぬこうとする宗教勢力との間に引き裂かれているという現実が、こうした祭りの場にあからさまに表出していたことも印象的でした。

ガス抜きとして年に一回だけ開放的になることが許されるジャナドリア祭には3週間の会期中に数百万人が入場するそうで、リヤドの人口が400万人ということを考えると、本当にそれ以外の「ケ」の日々には、市民が集団で文化や芸術に触れる場は存在しないという裏側の日常を思い知らされます。なにせ、映画館がない国なのですから。とすると、今後、ここで出会った日本ファンたちに日本の文化を伝道していく場を作っていくことは簡単なことではないと察せられますが、男性・女性の別や差し出すコンテンツの内容に配慮しながら、保守勢力を過剰に刺激しないようにして、交流の場を継続的にもっていきたいと思います。リヤドの女子大学が日本語学科開設を強く希望していて、まずは学科開設支援をその第一歩としてすすめていきたいと考えています。

最後に、アブちゃんことアブダッラー君のこと。若干24歳。大学で物理学を修了したけれど、頭のなかはほとんど100%日本で占められていて、男女問わず、facebookなどSNSで知り合った日本の友人とSkypeで交信しながら、日本語を独学で相当レベルまでマスターしてしまったスーパーマン。自称「サウジの浜ちゃん」は、マシンガントークでこちらの目を白黒させながら、始終周囲を笑いの渦に巻き込みます。座右の銘は「基本的人権」。日本文化といえばアニメとドラマが主流だったところが、今回、僕らがもちこんだ茶道のレクデモの通訳を通して、オーセンティック・ジャパンにも開眼。茶道の根本精神の「一期一会」と「和敬清寂」が「基本的人権」に加わって、このジャナドリア祭で日本通ぶりがさらに増強されました。近い将来に日本で1年か2年住んで、ゆくゆくは通訳など日本と生涯関わっていける職業を得たいと望んでいるすこぶるチャーミングなアブちゃんを、僕らジャナドリア・チームはみな、愛しています。彼の夢の実現は、日本とサウジアラビアの将来の友好にとっても大きなプラスになると信じ、応援しています。

えてして、ひとりの良き人間との出会いがその人の属する国や街のイメージ自体を美しく染め上げてしまうもので、僕のいま現在のサウジアラビアに対する熱も、たぶんにこの日本大好きな心の美しい青年との友情が引き起こしたものかもしれません。とはいえ、百聞は一見に如かず。異文化に非寛容な原理主義者の国という一般に流布したイメージが、僕のなかで粉砕されてしまったことは紛れもない事実です。入ってくる情報の少ない国ゆえ、実像をとらえるのは簡単ではないですが、これからこの国を観察していくときには、このフェスティバルで出会った普通のサウジアラビア人の開放性と異文化に対する好奇心、そして日本に対する敬愛の情のことをいつも心に留めておこうと思います。
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普通のサウジアラビア人との遭遇
佐藤さん
ご無沙しております。いつもブログを楽しく読ませて頂いています。エジプトのサウラ(革命というとオーバーな言葉になってしまうのでアラビア語にします)のレポートもとても臨場感に溢れ、周囲のエジプト人の意見も取り入れられていて勉強になりました。昔からうちはサウジ人との交流が多かったものですから佐藤さんのご経験を自分と重ねて読ませて頂きました。これからも中東便り楽しみにしております。
morooka yoko 2011/05/01(Sun)18:45:47 EDIT | RES
激励多謝
コメントを嬉しく拝読しました。つたない観察ですが、少しは現地の様子をお伝えできていると知り、これからも、報道だけでなく、人々の声にも耳を傾けながら、新生エジプトを自分なりに咀嚼して、お伝えしていきたいと思います。facebookもやられてますよね。お友達になってください。
すっかる 2011/05/02(Mon)05:20:09 EDIT | RES
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インドで4年生活し、今度はエジプトへ!この国の人々の生態、面白情報をお届けします。

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