えじぷとの文化、芸術、エンターテインメント堪能記です。
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仕事が立て込んで、客人の空港送迎が何回も重なった折、カバンにしのばせた『野間宏責任編集 現代アラブ文学選』に収められたガッサン・カナファーニー著「ハイファに戻って」を読んだ。パレスチナの抵抗文学を代表する作家ガッサン・カナファーニーのそういう作品が邦訳されていることをずいぶん前に知っていながら、何年もほうったらかしにしていたのを、ようやっと読んだ。
イスラエルが建国された1948年のハイファ。ユダヤ人の武装勢力によって組織的に海岸線へと追い立てられ、そして祖国を立ち去らざるを得なかったパレスチナ人の夫婦が主人公。しかもこの二人は、生まれたばかりの息子を我が家に置き去りにせざるを得ないという悲しい運命を生きなければならなかった。
それから20年。第三次中東戦争の結果、ヨルダン領となっていた西岸がイスラエルに占領され、皮肉にも西岸とイスラエルの間での人の行き来が可能になった。その機に、西岸に追いやられた人たちが故郷をお忍びで訪ねることが多くあったようで、主人公の夫婦も勇気をふりしぼって、故郷のハイファに息子を置き去りにした我が家を再訪することにしたのだった。
息子はイスラエルの夫婦に引き取られ、イスラエル人として育てられ、そして軍人になっていた。その息子が実の親に向けた言葉は、あまりにも痛烈だ。
ここで話されている「誤り」と「不正」を「暴力」とか「テロ」という言葉に置き換えてみると、彼のいいたいことがよくわかるかもしれない。
そして、彼岸の人たちとわかりあう可能性に絶望したサイードは、イスラエルと戦うために家を出ようとしているのを自分が引き止めてしまったもう一人の息子に対して、自分がラマッラーに戻るまでに彼が親の言うことをきかずに戦いに出ていってくれたらいいと願う。でも、サイードは、その願いは、手の届かないところに行ってしまった実の息子に象徴されるように、永遠に取り戻すことのできない故郷を取り戻そうとする、まったく不可能な願いであることを承知のうえで、それでも、そう願わずに居られなかったのだろう。
その絶望の深さを思い知らされる、すごい力をもった文学だ。
イスラエルが建国された1948年のハイファ。ユダヤ人の武装勢力によって組織的に海岸線へと追い立てられ、そして祖国を立ち去らざるを得なかったパレスチナ人の夫婦が主人公。しかもこの二人は、生まれたばかりの息子を我が家に置き去りにせざるを得ないという悲しい運命を生きなければならなかった。
それから20年。第三次中東戦争の結果、ヨルダン領となっていた西岸がイスラエルに占領され、皮肉にも西岸とイスラエルの間での人の行き来が可能になった。その機に、西岸に追いやられた人たちが故郷をお忍びで訪ねることが多くあったようで、主人公の夫婦も勇気をふりしぼって、故郷のハイファに息子を置き去りにした我が家を再訪することにしたのだった。
息子はイスラエルの夫婦に引き取られ、イスラエル人として育てられ、そして軍人になっていた。その息子が実の親に向けた言葉は、あまりにも痛烈だ。
こんな言葉を自分の子どもに吐かれることを想像してみる。あんまりおぞましくて、自分は状況を直視できないのではないかと思う。主人公のサイードもまた衝撃を受け傷ついたのは当然だが、ここで彼が息子に返した言葉が、パレスチナ人のイスラエル人と国際社会に対してぶつけたいメッセージを的確にかつ強烈に伝えていると思われ、僕は忘れないようにどこかに書き留めておこうと思わずにはいられなくなった。「あなたが思慮深く、分別ある人間が振舞うべきであるように行動していたら、このようなことは皆、起こらずに済んだのです。」
「あなた方はハイファを出るべきではなかった。もしそれができなかったのなら、如何なる代価を支払おうとも、乳呑児をベッドに置き去りにすべきではなかった。そしてもしこれもまた不可能であったと言うのなら、おめおめとハイファへ帰ってくるべきではなかった。あなたはそれもまた、不可能だったと言うのですか?二十年が過ぎたのですよ。二十年が。そのあいだあなたの息子を取り返すために何をしたのですか?もし私があなたの立場にあったら、私はそのために武器をとったでしょう。武力に勝る手段がありますか。なんて無力な人たちなんだ!なんて無力な!」
「しかし、いつになったらあなた方は、他人の弱さ、他人の過ちを自分の立場を有利にするための口実に使うことをやめるのでしょうか。そのような言葉は言い古され、もうすりきれてしまいました。そのような虚偽で一杯の計算づくりの正当化は・・・・・・。ある時は、われわれの誤りはあたな方の誤りを正当化するとあなた方は言い、ある時は、不正は他の不正では是正されないと言います。あなた方は前者の論理をここでのあなた方の存在を正当化するために使い、後者の論理をあなた方が受けねばならぬ罰を回避するために使っています。私にはあなた方が、この奇妙な論理の遊戯を最大限にもてあそんでいるように見えます。あなた方は新たに、われわれの弱さを駿馬にしたててその背に乗ろうとしている。いいえ、私はあなたがアラブ人だと規定してこんなアラブ的なたとえをつかって話しているのではありません。私は今、人間はそれ自体が問題を孕んだ存在だと言うことを誰よりも理解しています。」
ここで話されている「誤り」と「不正」を「暴力」とか「テロ」という言葉に置き換えてみると、彼のいいたいことがよくわかるかもしれない。
そして、彼岸の人たちとわかりあう可能性に絶望したサイードは、イスラエルと戦うために家を出ようとしているのを自分が引き止めてしまったもう一人の息子に対して、自分がラマッラーに戻るまでに彼が親の言うことをきかずに戦いに出ていってくれたらいいと願う。でも、サイードは、その願いは、手の届かないところに行ってしまった実の息子に象徴されるように、永遠に取り戻すことのできない故郷を取り戻そうとする、まったく不可能な願いであることを承知のうえで、それでも、そう願わずに居られなかったのだろう。
その絶望の深さを思い知らされる、すごい力をもった文学だ。
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