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えじぷとの文化、芸術、エンターテインメント堪能記です。 twitter: @sukkarcheenee facebook: http://www.facebook.com/koji.sato2
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23日から25日まで、グループツアーに乗っかって、アビドス・デンデラ・ルクソールの古代遺跡を見てまわる予定だ。

ファラオニック・エジプトにはもともと興味薄で、ピラミッドと博物館とルクソールを一回ずつ見ておけば満足と思っていたし、いまもそう思っているが、ピラミッドと博物館はお客さんをご案内するために十回以上拝ませていただいたし、ルクソールは、「豪華客船ナイルクルーズの旅」というコピーにつられて、アガサ・クリスティ『ナイルに死す』よろしく、ルクソールからアスワンまでの優雅な客船移動を満喫し、そのまま飛行機でアブ・シンベルまで出かけ、夜のライトアップショーと日の出の御姿を拝見までしてしまい、結果的にはそれなりにファラオニック・エジプトも楽しんでしまっているのだった。

でも、今回のアビドスは、"Omn Sety's Egypt"という本の訳者でエジプトに7年住まわれたエッセイスト、田中真知さんから直接、Omn Setyなるニックネームのイギリス人女性の数奇な物語を聞いてしまってから、行かねばならぬというわりと強い気持ちが持続していたところに訪れたツアー企画だったので、二つ返事で参加したわけ。

それで、日本から調達したこの訳本『転生者オンム・セティと古代エジプトの謎』(Gakken)を、旅に出る前に付け焼刃的に読んでみたら、やはりめっぽう面白い話でした。

オンム・セティが階段から落ちて頭を打ってから古代エジプト18王朝の巫女ベントレシャイトが憑依したというべきか、ベントレシャイトに転生してしまったというべきか、突然古代エジプトの記憶を語りだし、大英博物館の銅像に接吻したり、ヒエログリフを読み始めたりして、ついには英国留学中のエジプト男性と結婚してカイロに住みつき、そしてぐいぐいとファラオの世界に引き込まれていく物語には、やはりグイグイと引き込まれた。

でも、それと同じくらい面白かったのが、アビドスの村に住み着いた彼女が一級の文化人類学者として現在のエジプト人の暮らしをつぶさに観察し、それと古代エジプトの碑文から読み取れる古代人の文化との共通性に光をあてたというくだりだった。以下、本文中から、そのことについてのオンム・セティの言葉を少しひろってみよう。

アビドスでいえば、このあたりの女性は地面にしゃがみこんだ姿勢で出産するんだけど、そのとき手に大きなナイフを持つの。初めてここの村で出産に立ち会ったとき、私は『どうしてナイフを持つの?』と訊いた。すると彼女は『悪霊を寄せ付けないためだ』といった。じつはセティ一世神殿にも女神ムーとがカバの姿で出産するシーンが描かれているのだけど、そのとき女神はしゃがみこんで、手に大きなナイフを持っている。

エジプトの田舎では、赤ん坊が生まれて七日目になると、その子をザルに入れる習慣があります。ザルの中には雑穀や豆や小麦を入れて揺らします。(中略)ルクソール西岸にあるハトシェプスト女王の葬祭殿に、それと同じシーンが残されているわ。冥界の神アヌビスが、子どもを入れたザルを揺らしているの。


カイロの人たちと話していて感じるのは、現代と古代の「断絶」で、うがった見方かもしれないけれど、どうも、彼らは国庫を潤す貴重な観光資源であるファラオニック・エジプトをどう扱っていいかわからずに、もてあましているように思われてならない。ピラミッドなんて、一生で一回、学校の遠足で行ったくらいというのを聞くと、ひとごとながら、なんだか寂しい気持ちになる。

だから、3000年も4000年も前から脈々と続いてきた風習が村にはいっぱい残っていることを知って、安心したというか、少しほっとした。僕のうがった見方は、ものごとの一面しか見ていないのだとわかったから。

英国からの独立期から共和制移行期にかけて、エジプトの知識人の間では、新しく創造しなければならないナショナル・アイデンティティのよりどころとして、イスラームでもなくキリスト教でもなく、特定の党派性をもたずに国民全員がアイデンティティを感じられる可能性を、ファラオ時代に求めたというのを読んでことがある。ナギーブ・マフフーズも、初期の小説ではずいぶん歴史に題材をとっていたし、絵画などアートの世界でもモティーフとしてたくさん採用されたという。

最近読み始めた歌手オンム・クルスームの伝記では、彼女が国民的歌手となった理由の一つに、その「農民の出自」があったと書かれていた。太古から大地とともにある農村の暮らしとそこから生み出されるメロディやリズムには、いかに後発のアラブ的な要素が強く含まれていようとも、遠いファラオの木霊が残っているのかもしれない。

そうやって、太古のエジプトと現在のエジプトをもっと身近につなげて感じることができれば、もっとこの国のことが面白く見えてくるかもしれない。オンム・セティの物語からは、そういうメッセージが聞こえた気がした。



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楽しんできてください!
アビドス&デンデラは、エジプトで一番好きな遺跡です。
10年くらい前に、ディスカバリーでウンムセティさんのことをやってましたがご高齢とのこと、まだご健在なのでしょうか。
私も会ってみたくて、アビドスで村の人に聞いてみたのですが、知らないと言われてしまいました。

デンデラには、懐中電灯のような花や星座ののレリーフなど見ごたえ十分なものがたくさんあるので、急ぎ足で効率良く見てくださいね。
アビドスの歴代ファラオのカルトゥーシュを見たときは、本当に感動しました!
って、もう今日出発されたのですね。
すっかるさんも、気に入ってくれるといいなぁ。
アーヤ 2010/04/23(Fri)14:23:05 EDIT | RES
無題
ありがとうございます。結果報告は、今日の日記をご覧下さい。すっかり、オカルティズムにはまってしまいました・・・オンム・セティはずいぶん前に亡くなっていますが、いま王家の谷のツタンカーメン王墓下にあるとしてネフェルティティの墓を探しているプロジェクト、このことを数十年前から彼女は言い当てていたのだとか。現在のプロジェクトが動き始めたときに、彼女の親友のエジプト人が、伝記を発表する気になったのだそうです。
すっかる 2010/04/27(Tue)01:40:18 EDIT | RES
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インドで4年生活し、今度はエジプトへ!この国の人々の生態、面白情報をお届けします。

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