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えじぷとの文化、芸術、エンターテインメント堪能記です。 twitter: @sukkarcheenee facebook: http://www.facebook.com/koji.sato2
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カイロにやってきた昨年末、車で街を走っているとあちこちに架かる巨大な看板が目にとまった。白い服におきまりの白いとんがり帽子でいかにも料理人といういでたちの恰幅のよいおじさんの横顔が笑っている。タイトルらしきものがアラビア語と英語でかかれていて、英語では"President's Chef"とある。「なるほど、ムバラク大統領の料理人とはこんな人か」と関心していると、そうではなくて、映画の宣伝だと教えてもらった。

おじさんの笑顔があまりにも素敵だったので、この映画は見ておきたいと思っていた。かれこれ4ヶ月以上が経過し、ロングランとはいえいつ終わってもおかしくないので、昨日、初めてエジプトの映画館に足を運んだ。

新聞でみると市内の商業映画館は32件。今回は、事務所にほど近いラムセス・ヒルトン・ホテルのアネックスビル7Fのシネコンを利用してみた。

上映時間は全上映作共通で、15:30、18:30、21:30の三回。平日も休日も同様で、朝に人が動かないことを意味している。料金は25エジプト・ポンドだから、約500円。平均所得が1000ポンド程度とすると、月給の1/40程度だから、映画が高いと言われて久しい日本よりも高い。18:30の回に行ったところ、観客は僕を含めてわずか5人。ダウンタウンから離れた単館だともっと安いのかもしれないが、庶民の娯楽というにはちょっと高めの料金設定かもしれない。

セキュリティは結構タイトで、まず金属探知機をくぐらなければならない。その後、係りの女性に手荷物チェックをされ、カメラと映画鑑賞のお伴にと持参した昼の残りのサンドイッチを没収。帰り際にちゃんと帰してもらえたけれど、飲食禁止とは随分ストイックなものである。一方で携帯電話は持ち込み自由で、おばちゃんの携帯は上映中に何度もピピピと鳴るのだから、取り締まるべき優先順位を間違えてやしないか。

さらには、エアコンの寒いこと、寒いこと、これはインドも顔負けだ。前半は意外と控えめだったのが、後半になるとガンガンに。お客さんの誰かが暑いとか苦情を言ったのかもしれない。

インドとの比較でもう一つ注目すべきは、インターミッション!今回見た映画でも、上映後1時間15分後くらいに、5本ほど、電気がついて、しっかりと休憩が入りました。

前置きとしてダラダラと周辺情報ばかり書きなぐったが、エジプトで映画を見てみたいと思う人には、なにがしか有益な情報と思われるので、参考まで。

さて、映画の内容だが、残念ながら、東京の語学学校の正則アラビア語コースを落第寸前でなんとか消化した程度の語学力では、エジプト方言の普通のスピードの会話を聞き取るのはなかなかシンドイ。自分では1割程度わかるかなと期待して臨んだが、結果は惨憺たるもので、よく見積もっても5%くらいだろうか。

それでも、作品が軽快な状況喜劇で、映像を追うだけでもなんとかストーリーを把握できたのは救いだった。

主人公は、庶民の住む旧市街で路上で非合法に屋台を営む料理の達人。コメディ役者として人気のあるタラート・ザカリア(Talaat Zakaria)が演ずる。もう一人のメインアクトが、大統領。ハーレド・ザキ(Khaled Zaki)という往年の名優で、ロマンス・グレーの実にカッコイイ役者さん。大統領は、「安全上の理由から」ということで、側近や警護官に遮られ、国民の肉声からいつも遠ざけられているのだが、本人もそれを知っていて、なんとか自分の目で実情を知りたいと思っている。ある日、お忍びで町に出かけたときに主人公の料理人と知り合い、彼の料理と「庶民性」を見込み、自分の料理人として指名することになる。こうして大統領は、物価高騰、配給のパンの劣悪化、下級役人の汚職など、庶民を苦しめる様々な問題の実情を、彼をとおして理解し、次々と改革案を出していく。面目を失い、かつ大統領に忙しくさせられた側近たちは事態を疎んじ、なんとかして大統領と料理人を遠ざけようとするのだが、ある日、料理人の彼がC型肝炎の保持者であることが判明し、あえなく、お役ゴメンとなってしまったのだった。こうして、一国の最高指導者と貧民街の料理の達人の奇跡的な友情は、夢のごとくに終焉を迎えた。

というわけで、映画はストーリーも面白いし、映像も音楽もマッチしていて素晴らしかったし、言葉がわかれば、どんなにか楽しめただろうかと思う。

最後にあえて、外国人の傍観者がうがった見方をするならば、この映画にも現代エジプトが抱える深刻な問題が現れている。すなわち、「体制批判はほどほどに。大統領批判は刑務所行き。」という周知の事実のことだ。4月15日付け英字紙"EGYPTIAN MAIL"におけるこの映画の紹介記事は、このように書いて、作品がいかに果敢に禁忌に挑戦したかを褒め称えている。

「エジプトの検閲当局は、このタブー破りの作品に許可を与えたことを称えられてしかるべきだ。というのも、この映画が、物価高騰や大量の汚職に対する庶民の抗議が高まっている最中に封切られたからだ。」

しかし、この映画は体制を担う役所の問題にメスを入れ、鋭い批判を浴びせるが、決して大統領を悪くは描かない。大統領は庶民のことを理解しているが、とりまきがそれを邪魔している、という構図である。ムバラク大統領の80歳の誕生日を祝う5月4日の新聞もまた、大統領の国を思っての間断なき尽力に敬意を表するほめちぎりの記事がトップを飾るが、中をめくると物価高騰や汚職に対する批判記事が目白押しだ。

行政を批判はできても、その権限と責任の頂点にいる人物を批判できない。このような政治状況が、人間の表現活動にどのような影響を与えるか、よその国を題材にしてみると、それがよくわかる。そして、自分の国にもまた似たような問題があることに、思いを致さないわけにはいかない。

ボリウッドほどではないにせよ言葉がわからなくても楽しめるし、いろいろ考える機会を与えてくれる初のエジプト映画館体験だった。

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国際交流基金の海外事務所の楽しい仕事のなかでも一番好きなのは、その国の文化人の日本への送り出しだ。その国で尊敬される芸術家や学者を日本に招待して、日本の名勝・文化遺産・生活文化を見てもらい、帰国後にその見聞をメディア等で発表してもらったり、あるいは、日本の同じジャンルの専門家と会い、相互理解が深まった暁には共同制作などより高いレベルの交流をしてもらったりする。

今日は、3月17日から25日まで東京で開催される「アラブ映画祭2008」のために国際交流基金が招待する映画監督、Muhammad Khan氏に事務所に来ていただいて、日本でのスケジュールなどを説明し、15分か20分そこらだったが日本について、そして映画について、お話しすることができた。

今回の映画祭では、『ヒンドとカミリアの夢』(1989年)と『ヘリオポリスのアパートで』(2007年)の2本のカーン作品が上映される。エジプト国立フィルムセンターから英語字幕つきのDVDを提供してもらって、『ヘリオポリスのアパートで』を鑑賞した。純粋な本当の愛を信じるエジプト南部の田舎町の女性と、大都会カイロで深くコミットしあわない表層的な愛に心のなかでは満足していな男性が、ヒロインの女学院時代の先生の存在をきっかけとして出会い、徐々に惹かれあっていく過程を優しく描くロマンティックな映画だった。

オフィスで鑑賞会を開いたわれらが現地スタッフには物足りなさが残ったらしく、Aさんは「時代遅れ、現代の都会生活のリアリティとマッチしない」と特に厳しい評価だった。しかも、本日、カーン監督に対しても「古きよき時代を現代に取り戻したい、という監督の気持ちを感じました」などと、なかなか率直なコメントをしたのだが、カーン監督はそれを面白がって聞いていたようだった。

ロマンティシズムは、男の心のなかにかろうじて灯る明りとなりにけり?日本、エジプト、お国を問わず、世の女性のほうが現実とまっすぐ向き合っているのかしらん。

まだ寒さ残る東京で温かい気持ちになりたい人にはオススメしたい佳作です。
(3月19日(水)18:30~ 草月ホール、3月23日(日)16:30~ OAGホール)
CIMG1601.JPG前任者が1月末にカイロを引き払うやいなや、初仕事として舞い込んできたのが、「日本映画週間」。2月4日から2月7日までの4日間、4本の作品を2回ずつ、計8回の上映を行い、427人の観客を集めた。この入場者数で満足していいものかどうか、いまのところよくわからないが、同時にピラミッドで凧揚げもやってのアクロバティックな展開だっただけに、自分としては終わってほっと一息ついている。



CIMG1600.JPG上映作品は、『スウィングガールズ』(2004年)、『父と暮らせば』(2004年)、『銀河鉄道999』(1980年)、『豪姫』(1992年)の予定だったが、試写したところ『豪姫』のプリント状態が悪く、代わりに『駅』(1981年)を上映することになるというハプニングがあり、妙に浮き足だったイベントとなってしまった。



一息ついたところで、うちのスタッフがアンケート集計を届けてくれたので、興味津々で目を通した。学園青春熱中ドラマの数々で日本中の映画ファンを虜にする矢口史靖監督の『スウィングガールズ』は、文句なしに大好評。アンケートに答えた78人中53人がVery good, 21人がgoodという評価だった。若手、中堅監督の良質なコメディをはじめて見たという観客がほとんどで、その面白さとアーティスティックなレベルの高さの両方に驚いたという感想が多く聞かれた。「矢口節」が世界で遍く愛されるということが、はっきりと確認できた。



『父と暮らせば』は、脚本・ディレクションともに優れた秀作として、自信をもって提供した作品だったが、77人中Ordinaryが5人、Bad or Boringが8人いて、全体としては好評なるも楽しめなかったオーディエンスがいたことがわかった。コメントを見ると、「もっとExterior(外交的な)映画を!」とか、「登場人物が限定されすぎ。ちょっと陰気くさすぎ。」などといった感想がちらほらとあって、この国の映画愛好家のテイストにはなじまない部分があることがわかる。もうちょっと洗練された評価だと「この映画は少し演劇的な傾向が強い。長い劇を見せられているような気分になるが、もう少し映画的に優れたひねりが必要ではないか。」となる。一方では、「ヒロシマについての情報が足りない。自分はもっと知識が得られると期待してきた。」というようなコメントもあり、映画を通して歴史の外形的な情報も得たいと望む人たちがいることがわかった。僕らの感性では、父と娘の間の会話の積み重ねにこそ人間的な情愛が篭っていて美しいということになるのだが、陽気なエジプトの人たちはもう少し外に表出される感情表現を好むのかもしれない。



『銀河鉄道999』は、30年近く前の作品だが、当時のアニメーション技術の粋を凝縮させた傑作は、今見ても決して見劣りがしない。実際、多くの観客がプリントの劣化を嘆きつつも、オリジナルの技術の高さを賞賛していた。コンセプト自体に対する評価も高く、「大きな想像力をもった作品。80年代初頭という時代を感じさせないい今も新しいアイデアが詰まった、人間感情の深みを探求する作品。」という、主催者冥利につきるコメントも頂戴した。興味深いのは、この映画が「政治的」だというコメントを何人かが寄せていることで、ロボットを量産するメーテル星を、「残虐で人間的あたたかみのない悪の技術帝国」とし、それは現代のアメリカを表象しているのではないか、というような読みをしていた。幼少期に松本零二のアニメーションに胸ときめかせた自分としては、星野哲郎の人間としての成長こそが大切な主題なのだが、見る人とコンテクストが変われば、違った見え方があるものだ。



アンケートをとおして、ちょっとだけエジプト人の感性について知ることができた。こういう勉強の積み重ねを大事にしていきたい。

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インドで4年生活し、今度はエジプトへ!この国の人々の生態、面白情報をお届けします。

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