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えじぷとの文化、芸術、エンターテインメント堪能記です。 twitter: @sukkarcheenee facebook: http://www.facebook.com/koji.sato2
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f6f53765.JPG2歳の子どもがいて、この2月に第二子が産まれるということを考慮して、住居は日本人が多く住むコミュニティに近い場所を選んだ。ザマーレク(Zamalek)は、ナイル川に浮かぶゲジーラ島の北半分を占めるエリアの呼称で、古くイギリスの植民地統治期から高級住宅地であったらしい。ザマーレクの南東の付け根に位置するマリオット・ホテルは、当時の王族の宮殿を改築したもので、普通の高級ホテルとは違った落ち着いた風格を感じさせる。外国の駐在員家族がたくさん住むザマーレクは、車通りの多い726日通りをはさんだ北半分には外国の大使館やちょっと洒落たお店やレストランが並び、南半分は比較的閑静な居住区域となっている。東京に例えるとさしずめ青山といった風情だろうか。僕達も、年が明けた13日、南ザマーレクのマリオット・ホテルそばのマンションに居を落ち着けた。クリスマス・イブからのホテル暮らしの不便さ、窮屈さからようやく開放され、一息ついて、スーツケースに忍ばせた食材を使った数日遅れのお雑煮をいただいた。

 


ゲジーラ島の南半分は、一見すると砂漠の国エジプトとは思えない緑に覆われたエリアで、ゲジーラ・スポーティング・クラブという会員制の公園となっている。敷地内にはゴルフ場、テニスコート、プールのほか、トヨタカップにもよく出場するサッカーのクラブチーム、アル・アハリのグラウンドもある。年会費は少なくとも10万円単位と聞くから、この国の物価水準からすると、相当の金持ちしか会員にはなれない。日本では小市民のわれわれも、会員になろうなどと考えるには腰が引けてしまい、一人一日30ポンド(約600円)払って、週末だけ利用する。路上が車の洪水で危険きわまりないため、背に腹は代えられないと割り切って、中の遊戯施設で沙羅を遊ばせているという訳だ。

 


この公園の奥には、日本の援助で20年前に建てられたカイロ・オペラ・ハウスがある。赴任前にこの設計に関わった方の話を偶然聞く機会があったのだが、最初の設計図を見てエジプト当局がもっとイスラーム風にしてほしいと要求したため、モスク風のドーム形状となったと、不満そうに話してくれた。カイロの舞台芸術の中心地として、世界中の公演団を受け入れるこのオペラ・ハウスで、僕の所属する国際交流基金もときどき日本人芸術家を迎えて公演を行う。この119日に、トランペット奏者の
曽我部清典さん、ピアノの阿部加奈子さんの公演を終えたばかりだ。




ザマーレクにちなんだ話題をもう一つ。ここには幼少期のエドワード・サイードが住んでいたそうで、故佐藤真監督の手によるサイードの伝記映画"OUT OF PLACE"DVDを新居で見ていたら、見慣れたザマーレクの繁華街のショットに続いて、今は成功したビジネスマンが所有するフラットが映し出されていた。少年エドワードが両親と一緒によく遊んだというフィッシュ・ガーデンは、我が家から歩いて1,2分のところにある。『オリエンタリズム』をはじめとする著作でアカデミズムを超えてわれわれの世界認識に大きな影響を与えた偉大な知識人の足跡に近づけた気がして、そんな些細なことに胸がときめいた。


 

2ee4715cjpeg青山に例えてしまうと、いかにも外国人駐在員と裕福なエジプト人しか住んでいない浮き島のような印象をもたれてしまいかねないが、北ザマーレクの繁華街を離れて裏通りを歩くと、中産階級風情の人々の飾らない暮らしがあって、そんな人たちとの何気ない邂逅もまた楽しい。カイロに来て最初の金曜日(エジプトは集団礼拝の金曜日と翌日の土曜日が休日なのです!)、裏通りを家族で歩いていると、アパートの5階くらいの窓からロープでくくりつけた竹かごを地面にむけて垂らしているおじさんを見かけた。

76682d05jpeg何事かと思ってロープの先に目をむけると、10リットルは入るアルミのボトルを自転車の両脇にくくりつけた牛乳売りが、配達をしていたのだった。食材、衣料から子どものおもちゃまで何でも揃うスーパーがある地域に、昔ながらの顔の見えるサービスが活きている。

 




d0980416jpegレストラン、喫茶店、ブティック、電気屋さん、本屋さんが軒を連ね、ひっきりなしの車のクラクションで耳がおかしくなりそうな726日通りにも、人間臭さが満ちている。牛乳売りと出合った裏通りを離れこの目抜き通りに出ると、726日通りにぶつかる小さな路地から歩道まではみ出して一斉に西の方角へ頭を垂れる男たちが見えてきた。金曜の集団礼拝をモスクではなく近所の集会所(路上)でやっているのだ。すぐそばまで近づいた頃にちょうど礼拝が終わり、男たちが一斉に立ち去りはじめたが、30cm以上もある歩道の段差を沙羅を乗せたベビーカーを持ち上げて運ぶ作業に、一人の老人が手をかしてくれた。
03b72122jpeg礼拝直後の清められた心に接して、ほっとして726日通りに目を向けると、エンコして動かなくなったバスを警官数名と一般市民が後ろから押していた。乗客数十名は車中で空ろな目を窓外に向けていた。







ちなみに、ジャジーラ(Jazeera)は「島」という意味で、アラビア半島の北側に突き出た島国カタールが世界に誇る放送局Al-Jazeeraによって誰もが知ることになったアラビア語だ。エジプト方言では「ジャ」を「ガ」と発音するため、われらが住まいとなった高級住宅地ゲジーラ(Gezeera)は、実はただの「島」という意味なのであった。

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クリスマス・イヴの昼下がり、僕は妻と娘の沙羅とともに、カイロ空港に降り立った。




4年間のインド滞在を終え東京に戻ってから、さらに4年半あまりが経過していた。いちど異国の地の空気と食物で自分の体組織がすっかり入れ替わってしまう体験をしてしまった者は、その追体験を渇望するものかもしれない。このブログに最後の日記を記したちょうどその頃、エジプト赴任の内示を受けた。地球上のどの土地へ行けと言われても喜んで飛び立つつもりでいたが、アラブ文化の中心で輝きを放つカイロで生活し、かの地との文化交流に奔走する自分のイメージを膨らませてきただけに、組織から受けたこの命は実際、嬉しかった。妻も僕以上に興奮して、家族で始めての海外生活への夢を一緒に膨らませ始めた。2歳に満たない沙羅も、ここが東京であり、自分もいっぱしにパスポートをもって海を越えて時差7時間の世界へと旅立つことを、自分なりに理解しようとしているように思えた。

「沙羅、えぢぷと行くの。飛行機でびゅーんって飛んで行くの。」

と嬉々として語る姿に、身内や保育園の仲間から娘を引き裂いてしまうことへの呵責の念が和らいだものだった。

 
カイロで僕達を待っていたものは、デリーを凌ぐばかりの人、人、人。そして、車、車、車。空港は白タクの運転手を筆頭に男臭い熱気で沸き返り、路上は車線と道路標識を無視してクラクションを鳴らし続ける自動車が、お互いの車体をいまにも擦りあわしかねない無茶苦茶なバトルを繰り広げている。デリーとは違ってここの自動車はサイドミラーをちゃんとつけて走行しているので、一瞬、カイロのドライバーはデリーよりはお上品なのかなと思いかけたが、多くの自動車がボディーに激しい戦いの傷跡を残しているのを見て、即座に印象を改めた。10年前、国際運転免許証を懐に忍ばせてインドへ旅立ち、一度も使用しないまま4年を過ごし帰国したものだが、家族あげての引越しの手続きの多さにパニック状態になりながらも、なんとか時間をみつけて取りに行った今次の国際免許も、同じ運命をたどるに違いない。そういえば、鮫洲の窓口のお兄さん、新婚旅行がエジプトだったって、嬉しそうに話してくれたっけな。

 
家探しの期間泊まっていたホテル脇の路上で英字新聞アハラーム・ウィークリーを買ったら、ちょうどカイロの交通問題を特集していた。それによると、カイロの自動車数は、許容台数50万台に対して4倍の200万台にまで達しており、平均時速は21Kmを割った。交通マヒは既に末期状態に達している。同紙はまた、この深刻な交通問題の解決に対して政府があまりにも無策であると、この国の政府系メディアにしてはわりとストレートに辛辣な批判を投げかけていた。皮肉が利いていて笑えたのがDena Rashid氏寄稿のドライバー心得14箇条。「隣の車が大チョンボをするといつも仮定し、常に一歩前を進め。」とか、「道路を横断している歩行者があなたに注意を向けていないとき、絶対にクラクションを鳴らしてはいけない。そうすれば歩行者はびっくりして道路のど真ん中で立ち止まってしまうだろう。そのまま渡らせてあげなさい。」といったごもっともな忠告に混じって、「あなたのサイドミラーが何度も何度もぶつけられても、決して怒ってはいけない。それは車の一部ではないというのが、正しい一般的仮定である。」という、もはや悟りの境地にあるかのような訓示には、胸打たれるものがある。

 
カイロ・アメリカン大学教授のGalal Amin氏は著書"Whatever Happened to the Egyptians"のなかで、この末期的症状をこのように描写している。
 
「宇宙人がある日のカイロの路上に着陸したとしたら、我々が『プライベート・カー』と呼んでいる物体をどのように思うだろうか。素早く、便利で経済的な交通手段であるといった我々の認識を彼に一切伝えずして、それが道路の両脇に停めてある、あるいは狭い通りを亀の歩みでのろのろ進み、ちょっとの間前進したかと思ったらまた立ち止まり、しかも45人を収容することができるにもかかわらずどの1台にも1人か多くて2人しか乗っていない、何千台もの自動車のことを指しているなどとどうしてわかるだろうか?」
 
著者はこの状況の原因を70年代中盤に導入された輸入自由化に求め、これがきっかけて市中が世界中の乗用車のショールームと化したと言う。金のある者がみな一斉に乗用車に飛びつき、プライベート・カーの普及とともに公共交通機関はますます下層の人々に帰属するものとなった。こうして、公共交通機関の効率性と利便性の悪化が私用車のさらなる増加を招き、それがますます公共交通機関をダメにしていくという悪循環が産み出された。この国だけの問題ではないが、政府が経済の自由化を先行させ、その副作用に対して無策である時間が長すぎたことを、目の前の光景があまりにも露骨に語っているのだ。

 
家探しを辛抱強く助けてくれたローカル・スタッフのNさんに通勤事情を聞いてみると、自宅の車の送迎とバスの併用で朝は1時間程度でオフィスに着くが、帰宅ラッシュに巻き込まれる夕方は2時間を優に超えるらしい。あの家は家具がダメだ、この家は居間が狭いなどとケチをつけまくる我々を優しく見守り励ましてくれる彼女の忍耐は、毎日の通勤によって培われているのかもしれない。Nさんもすごいが、事務所の運転手さんの冷静さ、我慢強さにも敬服してしまう。無理な車線変更で追い抜かれてヒヤッとさせられるのは日常の行事だが、彼等は一般のドライバーと違ってやたらクラクションを鳴らしまくったりはしない。一車線の右に2列、左に2列、路駐の車がどこまでも並んでいるような状況でも、あせらずに最良の駐車場所を確保して、わずかな隙間にわれらの車を挟み込む神業を披露してくれるのだ。

 
こうして、どうしようもない道路状況に象徴されるお上の無策ぶりと、それを耐え忍びさらには笑いにまで高める庶民のたくましさが交差するカイロの日常は、われらよそ者の目を飽きさせることがない。
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